次頁をひらく

 
    

木にしがみつくセミの抜け殻が音も無く落ちる―

   夏の陽射しを含んだ葉たちに火がともり、

   山々は紅く その姿をひと時の間に燃やす―

     冷たい風が 時折強く吹いてはその火の粉を散らし、
舞い落ちた火は灰となりて土へと加わる―

     灰に埋もれた鈴虫達の調べが土をふるわせ、
  還り行くものたちに慰め歌を送る―

  そして 森の中の最後の演奏が終った―

   あれほどに騒がしかった世界に風が迷い込んでは、

     切ない嘆きを叫んで消えた―

     山たちは色を失い、その姿を水墨画のように淡く
  空気へと溶け込ませていった―
















    
  ドタドタタ…‥

       木のきしみと粗い太鼓のはずみが混じって響く。

  「ひゆり姉ちゃーん!」

    そこに加わったのは甲高い女の声―

     その音が騒がしく響く廊下のふすまがすーっと開いて
  にゅっと別の女が顔をだす。

    「あっ、こら、もみじ!ゆっ床が抜けるでしょ!」

     驚いてか、たどたどしい声に眠そうな目を廊下にはせる。

     「うわっ!恐っ」

     寸での所まで駆けて来ていた騒音の主が、
  廊下に突き出すその顔に驚いて飛び上がる。
  少し幼めな顔つきに大きな目を見開いて―

     「‥‥あなたもみじぃ、
  妹だからって大声でそんなこといわなくても…」

     顔を出す女は面を赤らめ、眠そうな目を更に細める。

     「あっ、ひゆり姉ちゃんそこで沈まないの!
  もっとお化けみたくなんでしょ。」

     「それ、励ましなんでしょ?」

     細い目とひきった眉で見上げながらぼそり‥

     「うっ、マジに恐いんですけど姉貴殿…」

     苦笑いげに大きな目を細めて言った。


        二人の女は会話のとうり姉妹である。
  3つと歳ははなれてないが、落ち着きある姉は年増に、
  活発で幼い顔立ちの妹は歳若く見られている。
  暗そうな細い目の姉が笹木 緋百合(ひゆり)、
  騒がしく大きな目の妹が笹木 紅葉(もみじ)といった。
  親が朱色の草花にこだわって名づけたようだが、
  二人の女は年頃も向かえて、それぞれに鮮やかな色を纏った
  美しき花と葉であった。

  二人は共に長く黒い髪を、紅葉は二本に束ね、
  緋百合は一つにまとめて腰あたりまで流している。
  服装も共にGパンに厚手のセーターのいでたちで、
  緋百合の側に本人のロングコートと紅葉のダウンジャケットが
  たたんで置いてあった。

        「もみじ、あなたねー、家じゃないんだから、
  もう少しおしとやかにしなさいよぉ!」

     たどたどしく不器用な言葉が正面に座る妹に投げられた。

     「ひゆり姉ちゃんこそなんでそう落ち着こうとしてんの?
  こんな状況で!」

     前に乗り出して紅葉が強く吐く。

     「う‥ それはそうだけど…」

     うつむき加減に言葉を探し出す緋百合。

     「とっ、ともかくさっ、まず考えるには落ち着かなきゃでしょ?」
     大きな手ぶりを添える緋百合だが‥
     「単刀直入型の姉貴のセリフじゃないんだけど?」

    冷たい紅葉の一言にあしらわれる。

     その責任感から、暗くなるまで落ち着いていた緋百合には
  痛い一言でもあった…
  
  
















     
  
  「そもそもひゆり姉ちゃんが車道に沿ってけば、
  すぐに山越えちゃうなんて言い出したんだよ!」

     口をふくらませて紅葉が続けた。

     「う‥ だってあのバスが先にいってから
  Uターンしてこなかったから車庫があるはずだと…」

     「うん、あの無愛想バスは超むかつく!
  突然下ろして、独りで先行っちゃうしさあ!」

     「あの時無言で無視されたでしょ。
  かちんときて文句言ってやろうと思って…」

  「はっ!?まさか姉貴殿、
  バス会社に殴り込む気だったんじゃ…!」

  真剣な顔であとずさる紅葉。

  「わっ!しないよそんなこと!
  ただ‥運賃くらい返せって言おうかと…」

     たどたど言いながら顔を紅く染める緋百合。

     「‥せこいな姉貴‥」

     その言葉に力の抜けた笑みで紅葉が言った。
  それにさらに顔を紅くした緋百合だが、
  一生懸命たどたど続ける。

     「でっ、でもこの先町があるんだし、
  多分そこで次のバスに乗り継げれば大丈夫よ!」

     確かに緋百合の調べた情報ではバスを二台乗り継げば、
  目的の場所へと着くことになっている。
  もともと各駅停車の電車を降りた駅は凄い田舎風景で、
  駅の裏が広大な田んぼ、そして山陰のみの景色だった。
  驚くことに田んぼと駅ホームに境界がなく、
  改札を通らずそこから出入りできるのだ。
改札に人はいるが、このあまりのどうどうさには
  田舎の神経の太さに感服する二人だった。

    ほったて小屋の駅を出てすぐ前がバス停で、その先に
  ポツポツと民家と新しいスーパーらしきものがあった。
  まれに通る車のほとんどが農家の軽トラで、
  都会暮らしの姉妹は渋い風景に苦笑いし顔を歪めあう。

    そんな二人の目的地は知名度の低い星の名所。
日本で最も星が良く見える‥そんな所だ。
  施設といえば山にそびえる天文台くらい。
  山奥小さなその町を目指す二人は、
  疲れた心に灯りをともそうとこの計画を立てた。
  実際、今の二人は街に重い気持ちを
  置いて着たかのように明るく(?)振舞って見える。
  こんな予期せぬ出来事にも、
  何かの必然を感じているのかも知れない‥
  それが、全てを形どられた街とは違う、
  大いなる自然の奔放さなのだろう‥

        その旅の過程において二人は此処にいたった。

     「ここから明かりも見えない先の町まで
  歩いたらどれだけかかんのよぉ!」

  すねた感じでダラケはじめる紅葉。

     「早足で2時間くらいかのぉ‥」

     「わわっ、お婆ちゃま!」

     廊下側を背にしていた紅葉の後ろからその声はした。
  振り返った紅葉は、そこに立つ小柄な老婆に愛想笑いを送る。
  背スジは伸びているものの体型がもともと小柄らしく、
     170pある姉妹が座る高さと並んでいた。

     「町とゆうても小そうて宿場もないけん、
  わしんとこみたいな家に泊めてもらうことじゃあ
  同じゃ思うよ。」

     しわがれた声に柔らかい笑みを添えて紅葉に言う。

     「妹が騒がしくしてすいません。驚かれました?」

     かしこまったしゃべりだと緋百合はすっ と言えるようだ。
     「あー 耳が遠くなってもうての、   さえずりほどしか聞こえてこなんだよ。」

     老人の年齢は判別しにくいが、彼女の場合深いシワから
  60は越えていて間違いないと緋百合は推測する。
  髪は染めているようでしっかりと黒い。
     「とりあえず、冷えてきたけんこれを持ってきたんよ‥」

  そういって老婆が差し出したのはたたまれた分厚い布‥
  受け取って広げると、
  布団のような質感の分厚いはおりであった。

     「あっ、ハンテンですよねこれ!」

     「婆臭い姉貴にぴったり‥あっ!!」

  「むかっ!紅葉今度はなによ!」

     「今度じゃなくて、さっきのよぉ!」

     そういうと廊下と反対側にゆき、
  そこを閉ざすふすまをばっ、と開いた。
     「わっ‥ 白いっ…?!」

     開けたその先に、空から舞い降りる白き蛍の群れ―
     緋百合はぽかんと別の世界に惚ける―

     「ーって馬鹿姉貴、雪だろ雪ぃ!」

    やかましく吠える紅葉の声に現実に引き戻される緋百合。

     「でも、ほらっ、綺麗じゃない?
  粉雪がさらさらと降るのってなんかいい!」

     夜の帳を白く染め返し雪は音も無く降りそそぐ―

  「あほぅ!!これ積ったらどうすんのって私は言いたいの!」

    「えっ?」

  ようやく紅葉の意思が通じた緋百合は、
  妹が何に動揺したのかに気付いた。

     「そっか‥山道に積るとやばいよね‥」

  バスも通る車道だが、急な坂とカーブは必然と多い。
  雪か凍結した地面で滑れば、
  ガードレールのゴールテープを切り崖の下へ…

     「お婆ちゃんとこに上がらせてもらったことで、
  外のこと忘れていた…」

      いつのまにか緋百合の言葉にたどたどしさが無かった。

     「やっと緋百合姉ちゃんのスイッチが入ったよ〜」

  いつになく真剣な面立ちの緋百合の横で
  紅葉が小さくため息をついた。

     三人は、音も無く闇に夢幻の絵を描く
  幾スジもの白き雪の流れを見つめていた…





次頁をひらく



 
出口へ




画像・文章の著作権はグレム・凛坊にあります。




風俗 デリヘル SMクラブ